蜻蛉


  
 染み込むような寒さ。冷たく澄んだ空気の中に反射する人の話し声。心地いい暖かさ。
 一軒家から聞こえてくる笑い声。僕の踏みしめる地面の音。
 
 誰かがいる。誰もが本当はここにいる。
 僕は歩いている。知っているような知らないような道。幼い頃、何度か来たことがあるかもしれない。
 
 そっと目を閉じてみる。
 赤、オレンジ、白。2列に並んで奥まで。
 さきはずっと遠い。ここからはきっとどんどん遠くなる。

 そっと開く。横切る大きな道。うなり声。車の音。
 足早に過ぎる。
 
 ジージー
 公園とその中の2本の街頭。
 紅い滑り台。水色の像。
 
 緑の茂み。
 覗いてみる。覗かれている?
 振りかえる。
 
 また、歩く。ひたひたと。

 沈み込ませる。奥のほうにある大きな水溜りの底。
 いろんなものを沈み込ませる。

 ぐぐっと上から押さえつけると、ちょっと反発する。指先でもう一押し。
 少しずつ自らの重さで沈んでいく。

 もう見えない。でもちょっと重くなった。座りが良くなる。
 元の形はもう分からないよ。沈み込んだから。

 大きく息を吐く。白いな。
 馴染んできたので少し強めにステップを踏む。
 うん。なんとでもなるんだ。